L.A.P.中小企業顧問弁護士の会の弁護士のGです。
今回は契約締結のオンライン化(電子署名)についてお話いたします。
DXという概念が叫ばれるようになって久しいですが、コロナ禍を契機に、オンラインでの業務は急速に普及したのではないでしょうか。例えば社内の書面デジタル化や、外部とのオンライン打合せなどは、多くの企業で導入が進んでいます。
しかし、取引先との契約書は依然として紙ベースでやり取りされているケースが少なくありません。契約内容の打ち合わせや情報共有はオンラインで行っても、最後だけ書面で署名押印するのは不合理だと感じることはありませんか?
そこで、注目なのが電子署名です。電子署名は、紙の契約書における署名・捺印に相当する役割を果たし、契約締結をオンラインで完結することができます。
本稿では、オンライン契約書作成における電子署名の基礎知識について解説します。
紙の契約書と電子署名の違い、そして電子署名の安全性について理解を深めていただき、DX時代の契約締結方法を検討するための第一歩としていただければ幸いです。
1.契約書作成の必要性の再確認
本稿は、契約書作成をオンラインで行うことがテーマですが、そもそもなぜ契約書を作成する必要があるのかについて改めて確認しましょう。
1-1. 契約書は必ず必要なのか?
結論から言えば、契約書は必ずしも必要ではありません。
民法522条2項は、
「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。」
と定めています。
つまり、法律で書面作成を義務付けている場合(例:保証契約)を除けば、口頭での契約も有効です。
1-2. 契約書を作成しないことのデメリット
しかし、契約書を作成しておかないと、
どのような内容で契約したかが不明確なため、後々トラブルになってしまう可能性がある。
のです。
1-3. メールでのやり取りも有効
ただし、契約書を作成しなくても、メールで詳細をやり取りすることで、契約内容を明確にすることは可能です。
実際に、発注書や受注書をメールでやり取りするだけで取引を行っている企業も多くあります。
2.押印の意味:なぜ契約書に押印が必要なのか?
では、「契約書」という書面に押印する意味はどこにあるのでしょうか。
2-1. 押印の役割
押印には、以下の3つの役割があると理解されています。
①最終的な内容確認: 押印された書面の内容が最終的なものであることを確認します。
②本人確認: 契約書上に表記されている当事者本人が意思表示をしたことを確認します。
③ 締結権限確認: その契約を締結する権限を有する者による意思表示であることを確認します。
前段落で触れたようなメールでのやり取りのみで契約内容を定めると、内容が錯綜したり、最終的な条件が不明確になったりすることがあります。またメールでやり取りしている相手が、本当に契約当事者であるかどうかを確認することができません。
一方、契約書を作成し代表社印等を押印することで、こうした問題を未然に防ぐことができ、結果として後々のトラブルを防ごうという趣旨があるのです。
2-2. 押印の重要性
ここまで述べたように、契約書はトラブルを防止するために作成している訳ですから、トラブルになった際に証拠として使えるものでなければなりません。
トラブル発生時に契約書が証拠として機能するためには、以下の条件を満たす必要があります。
成立が真正であること: その文書が、作成者(当事者)の意思に基づいて作成されたものであること。
(逆に、他人の名義を勝手に使って作成された書面は「成立が真正」ではない、ということになります)
関連する法律の条文は、民事訴訟法228条1項です。
民事訴訟法228条1項
「文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。」
この条文は、文書に民事裁判上の証拠としての価値を認めるにあたっては、その文書の「成立が真正であること」を求めているのです。
そして、「成立が真正である」という条件を満たすために重要な役割を果たすのが、実は押印なのです
それを示すのが同条4項です。
民事訴訟法228条4項
「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」
つまり、「押印があるときは、真正に成立したものと推定する」と定めていますので、契約書に押印することによって、後々のトラブルが発生した際に、「他人に名前を勝手に使われたのだ」という主張を一定程度封じることができることになるのです。
このように押印は、契約書の内容を明確化するとともに、契約書の証拠力を高めるために重要な役割を果たすのです。
3.電子署名:オンライン契約の安全性と法的な根拠
3-1. 契約書の作成と押印を求める意義
前項で述べたように、民事訴訟法228条4項は、契約書に押印することで「真正に成立したもの」であることが推定されると定めています。
つまり、「真正に成立したもの」であることを一から証明する必要がなくなるため、契約書の成立を証明する負担を軽減する効果があります。 これが、契約書の作成及び署名・押印を求める意義であると言えます。
3-2. オンライン契約における課題
従来の「紙の契約書」では、押印によって契約書の成立を推定することができました。
ではオンラインでの契約締結の場合はどうすればいいのでしょうか?
いくらオンラインでの契約締結が便利であっても押印と同様の効果が得られる手続きがなければ、安心して契約を締結することができませんよね。
3-3. 電子署名法と安全性
そのような手続きを定めているのが『電子署名及び認証業務に関する法律』(以下、略称「電子署名法」)です。
この法律は、オンライン契約における安全性確保のために制定されました。
電子署名法第2条では、「電子署名の定義と要件」を定めています。
また、第3条では、「電子署名された電子文書は、真正に成立したものと推定される」と定めています。
押印の効果を説明する際に引用した民事訴訟法228条4項と同じような内容が定められていることが分かります。
少し長いですが実際の条文を引用します。
電子署名及び認証業務に関する法律
第2条 1項 この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
1号 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
2号 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。
第3条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
つまり、電子署名法の要件を満たす電子署名を用いれば、オンライン契約においても、「紙の契約書」に押印するのと同じ法的な安全性を実現することができると言えるのです。
4.電子署名の定義や要件とは?:電子署名法2条と3条の解説
では、電子署名の定義や要件について、具体的に確認していきましょう。
4-1.電子署名の要件(電子署名法・第2条)
電子署名法第2条は、電子署名について以下の2つの要件を定めています。
• 本人性: 本人による電子署名であることを明らかにするもの
• 非改変性: 情報の改変ができないことを確認できるもの
したがって、「本人による電子署名であることを明らかにするもの」であり、かつ「事後的に内容を改変できないスキームで行われたもの」であれば、第2条における「電子署名」に該当するということができます。
4-2.本人による管理(電子署名法・第3条)
また、電子署名法第3条は、真正に成立したものと推定されるためには、「電子署名が本人によって厳重に管理されている必要がある」と定めています。
この要件の内容については、法務省が『電子署名の管理に関するQ&A』 を公開していますので、その内容を確認してみましょう。
「必要な符号及び物件が適正に管理されていること」という要件については、
他人が容易に同一のものを作成することができない状況を意味するもの
と回答されています。
紙の契約書に実印が押印されている場合と同じような効果を認める訳ですから、本人によって厳重に保管されているであろう実印と同様に、他人が勝手に電子署名を行うことができないようにする必要があるのです。
4-3.本人による電子署名であることの具体的な認証方法
具体的には、「強度の強い暗号等が用いられる必要があること」に加え、「本人が署名していることを明白に確認できるもの」であることが求められます。
たとえば
• 顔や指紋による認証
• 携帯電話やマイナンバーによる認証
• パスワード等の認識
等のうち、2要素認証のように2つの要素を用いて、本人による電子署名であることが明らかにされるのであれば、第3条の要件を充足すると言えるでしょう(ただし、2要素認証が絶対的な要件という訳ではありません)。
このように電子署名法に基づく電子署名は、本人性と非改変性、そして厳格な管理という3つの要件を満たすことで、紙の契約書に押印するのと同じ法的な効力を持ち、真正な文書であると推定されるのです。
5.電子契約サービス選びのポイント
ここまでは、オンライン契約書作成における電子署名の基礎知識について、電子署名に関する法律を引きながら解説してきました。
では、実際に法律上、「真正に成立したものと推定」してもらえるような電子契約をするためにはどうしたらいいのでしょうか。
5-1. 電子契約サービスの利用
各企業は、自社で電子署名法の要件を満たすシステムを開発するのではなく、さまざまな電子契約サービスの中からふさわしいものを選択し利用することで、効率的に電子契約を導入することができます。
(「電子署名」や「電子契約」等のキーワードでweb検索すると、さまざまなサービスが表示されます)
では、どのようなサービスが好ましいのでしょうか。
本稿の趣旨は、特定のサービスをお勧めするものではありませんから、具体的なサービス名称の列挙はいたしませんが、どのサービスを選択するかを検討するための手助けとなるものがあります。
5-2. サービス選びのポイント:デジタル庁「グレーゾーン解消制度に基づく回答」
それが、デジタル庁が公表している「グレーゾーン解消制度に基づく回答」です。
これは、電子契約サービス提供会社が、自社のサービスが電子署名法第2条の「電子署名」に該当するかどうかにつき経済産業大臣に照会したものについて、その回答書を公表したものです。
5-3. 電子契約サービス選びの基準
サービス選びの基準として、この回答書の中から、
• 電子署名法第2条の「電子署名」に該当するかどうか
という視点から選ぶことは考えられます。
(とはいえ、令和6年2月末日段階で約20もの回答書が公表されていますので、あまり絞ることにはつながらないかもしれませんが)
また、
• 第3条の要件を満たすかどうか
については、デジタル庁からの回答が公表されているわけではありません。
実際にサービス提供会社とどのようなやり取りがなされるかという点に影響されるため、サービス提供会社に直接確認する必要があります。
また、実際の電子署名の運用については、サービス提供会社により異なりますし、今後の技術発展により現在主流の方法が変わる可能性もあるため、これらの点についても、サービス提供会社に直接お問い合わせいただければと思います。
もし、複数のサービス提供会社に確認したうえで、「どこを選ぶべきか分からない」という場合は、顧問弁護士に相談されることをお勧めします。
6.まとめ:電子署名の基礎を押さえて貴社のDX化の加速を
いかがでしたでしょうか。
本記事では、紙の契約書における押印と電子署名における法的な違い、そして電子署名によって同等の安全性を確保するための要件について解説しました。
こうした内容をご理解いただくことで、オンラインによる契約締結を検討する第一歩となれば幸いです。(了)
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