E弁護士ブログ(40代男性、@新宿区)

AIがあれば弁護士はいらない?企業法務の現場から考える

AIの法律相談、信じて大丈夫?AI時代の顧問弁護士の役割を企業法務の現場にいる弁護士が語ります。

L.A.P.中小企業顧問弁護士の会、弁護士のEです。

この原稿を書いている2026年10月時点の所感ですが、ここ1年くらいで生成AIが劇的な進化を見せており、特にここ数か月は日進月歩という印象です。

かつて、AIに駆逐されることはないと言われていた弁護士業界ですが、現状を前提にしてもなお、弁護士は必要なのか?について本稿で検証したいと思います。

結論:AIは劇的に進化しているが、現時点では弁護士が必要

まずはじめに、ざっくりとした結論から申し上げますと、2026年10月現在、「AIは劇的に進化しているが、現時点ではまだまだ弁護士が必要」というのが、企業法務の現場にいる私の肌感覚です。

以下、その理由を見ていくことにいたしましょう。

企業法務において「生成AIにはここができない」と感じること

生成AIはどんどん進化していますが、2026年10月現在の生成AIはまだ、法的見解の正確性を保証してくれるレベルにまで至ってはいません。

無論、回答のすべてが誤りではありませんが、生成AIは、AI自身が出した回答の正答率が何%なのかを教えてくれません。

生成AIが高確率(仮に80%としましょう)で正解を出すレベルに至ったとしても、100回質問したうちの、どの80回が正解で、どの20回が不正解なのかにつき、AIは教えてくれません。

私もリーガルリサーチの下調べや誤字脱字チェック等で生成AIを使うことがありますが、生成AIというのは、質問の内容と使用する生成AIエンジンによって回答にばらつきがあります。

ある日には、そのままお客様に出せるような回答を上げてきたと思ったら、翌日には別人のようなポンコツぶりを見せることもある、という印象です。

AIを使った法的分析というテーマにまつわるこれらの問題は、AIの正解率や精度が100%にならない限り、常につきまとうことになります。

「顧問弁護士だからこそできる」と感じること

では顧問弁護士であれば、企業からの法的なお問い合わせについて、常に100%の確率で、精度100%の回答が出せるのか?というと、恥ずかしながらそうではありません。

しかしながら、弁護士が回答するにあたって、確度の高低などについてはきめ細かい回答が可能です。

この点を説明するためには、実際に弁護士が回答を作成する際のプロセスについて申し上げる必要がありますので、少しだけお付き合いください。

(1)法令の条文を確認し、明確に答えられるかを見極める

弁護士が法的論点について質問を受けた場合には、まず、法令の条文を確認します。

法治国家であれば、「法令の条文に書いてあることは、絶対に正しいので、守らなければならない」という前提で、社会が動いているからです。

お客様から相談を受けたケースそのものを想定した法令の条文が見つかり、条文の文言もはっきり明確であれば(=解釈の余地がなく、複数の読み方ができない表現であれば)、条文からストレートに解決方法が導けます。

そのため、お客様に対しては、「このケースはこうすべきです」という、精度100%の回答が可能です。

(2) 条文だけで答えが出ないときは、裁判例・文献・経験を踏まえる

一方で「条文の解釈が誰が見ても明確というわけではなく、条文を読んだだけで精度100%の回答はできない」ような状況下では、弁護士は下記のような内容を確認した上で、100%ではないにせよ、できるだけ精度の高い回答を目指すことになります。

①関連する裁判例

②研究者の書いた文献

③弁護士のこれまでの経験に基づく経験知・暗黙知

ここでいう経験知や暗黙知というのは例えば、「この点については明確な判例がなく、裁判官の中でもコンセンサスが形成されていないので、担当する裁判官によって勝敗が分かれる可能性がある」といった、経験に基づく知識をいいます。

このような経験知や暗黙知は、決してAIでは代替できないものです。

(3) 回答がどこまで確かなのかも伝える

条文の文言からストレートに回答が導けない場合、弁護士からの回答は、100%の確度・精度ではありません。

しかし、弁護士が回答する際には、精度がどの程度なのか、精度の幅がどの程度あるのか等について、人間ならではの経験知・暗黙知を含めた回答をしていくことになり、この点で生成AIよりもより実践的な回答が可能になります。

(4)費用をいただく専門家として、責任を持って回答する

また、回答に際しての「真剣度」という点でも、弁護士と生成AIとでは異なります(そもそもAIが時々ポンコツになるのは、不真面目ゆえではありませんが)。

お客様から費用をいただいてリサーチをする以上、必然的に回答には一定の責任を伴うことになります。

そのため、弁護士がある日突然ポンコツになって、180度ピントのずれた回答をするということはあまりないように思います(私自身への戒めとしましても、そのようなことがないように気を付けております)。

とはいえ生成AIにより、企業法務の業務量は減っているのでは?

とはいえ、これだけ一般の方の間に生成AIが浸透したのだから、企業法務系の弁護士に依頼すべき業務は減っているのでは?とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。

X(旧Twitter)等のSNSでも、そのような分析をしている方がいらっしゃいます。

しかしながら、企業法務の現場に身を置いている私の、2026年10月現在の肌感覚としては、「今のところ、業務はむしろ増えている」と感じます。

理由は大きくいって、以下の2点ではないかと思います。

(1) AIとの対話で自社の課題が言語化され、相談につながる

1つ目は、企業の経営者様や法務スタッフ様の中に生成AIが浸透した点に起因します。

これまで、企業の経営者様や法務スタッフ様の中には、自社の課題やご自身の問題意識を十分に言語化するのが難しい方もいらっしゃり、この点が弁護士への相談のボトルネックになっていたように思います。

生成AIの進歩により、「なんとなくこのままじゃ法的にまずい気がする」というレベルでとどまっていた自社の課題は生成AIとの対話の中で言語化され、新たな相談分野として弁護士に持ち込まれるケースが増えているように思います。

私の経験上も、実際にここ数か月で、「生成AIはこう言っているけど、正しい分析ですか?」という切り口のご相談が激増しています。

(2) AIで理論武装されたクレームへの対応が必要になる

2つ目は、クレーマーや問題社員が生成AIにより理論武装を始めた、という点に起因します。

クレーマーや問題社員の方に十分な言語化能力がない場合、これまでは「クレームを受けることは確かにあったが、そのクレームの内容が何を言っているのかよく分からないので、対応のしようがない」という対処で済んできた場面もあったように思います。

ところが生成AIの進化により、そのような方からのクレームも一見すると、「理路整然かつ法的に通るように見える長文の文章」のかたちをとるようになりました。

実際には法的に全く通らない荒唐無稽な内容であったとしても、会社の経営者や担当者だけでは、その主張が法的に妥当かどうかを判断することは難しいケースが多く、結果として弁護士への相談が増えるようになった、というわけです。

むすび:AI時代こそ、回答を見極めて助言する顧問弁護士を

最後にひとつ余談なのですが、私の顧問先の中には、日本のAIの草創期からAI関連業務を生業にしている企業様が複数いらっしゃいます。

また、生成AI関連企業ではないものの、社内に情報システム部門があり、積極的にAIを活用している企業様からも、依然として顧問弁護士としておつきあいをいただいております。

この事実から見ても、顧問弁護士は生成AIに駆逐されず、弁護士には独自の存在意義がある(ただし、2026年10月現在の知見)と言ってよいように思います。

つまり、AIの回答が自社の問題に当てはまるのか、その回答は自社にとってどこまで確かなのかを見極め、経験に基づいて責任を持って助言する専門家が必要であると考えます。

この記事をご覧になっている中小企業の経営者の方や法務スタッフの方におかれましても、「生成AIがあれば法務マターは大丈夫」とお考えになることなく、生成AIの時代だからこそ、ぜひ生身の顧問弁護士の導入をご検討ください。

(了)

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新宿区(新宿御苑駅近く)にて開業中の40代男性・E弁護士。上智大学卒。

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